彗星核本体の大きさはとても小さく数km~数10kmといわれていて、遠い銀河系外惑星を見るようなものです。「○○彗星が見えた!!」といっても見えたのは彗星核本体から噴き出して広がったチリやガスであり、本体そのものはとてもとても望遠鏡でも見られるというものではありません。でも、彗星の画像をもとにその形状やそこで何が起こっているかについて、画像処理により考察できるものです。
この画像は2024年10月20日に撮影された紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)核近傍の画像です。右下方向から太陽風を受け、放出されたチリやガスが左上方向になびいているようすがわかります。この画像から核付近を切り取り、拡大して強調処理をしたものが下の画像です。
ほぼ点でしかありえない彗星核から放出された物質について・・・
①核から放出された明るい白い領域が角ばっている。
②太陽の方向(右下)で赤が濃く分厚い。
以上の2点から、彗星核の太陽光を受けている面で最も強い放出が起こっており、彗星核本体はデコボコした形状である・・・ということが示唆されます。
1997年の大彗星ともいわれるヘール・ボップ彗星(C/1995 O1)についても、当時の興味深い考察があるのでここで示します。
1997年3月30日 19時25分 135mm F4 露出10分
ペンタックスMX スカイメモQ スーパーGエース800 東京都檜原村にて
夕方の西空に輝く彗星の姿で、青色のイオンテイル、黄色のダストテイル共に10度以上に伸びている。地球からの距離は約1.35AU、太陽からの距離は約0.92AU、推定等級0.6等である。
※1AUとは1天文単位(太陽地球間の平均距離)のことで、太陽系内ではよく使われる距離の尺度である。1AU=1億5000万kmで光の速度(30万km/秒)で8分19秒かかる。
20cmシュミットカセグレン望遠鏡のF10直焦点による画像を示します。太陽は左上の方向にあります。
1997年4月26日 19時43分
20cmシュミットカセグレン望遠鏡
直焦点2000mm(F10)
ペンタックスMX 露出90秒
スーパーGエース800
東京都青梅市にて
核近傍のコマの部分が層状構造になっている。この現象は、自転している彗星本体表面のごく一部にガスの噴出が継続的に著しく強い場所があり、まるでスプリンクラーから飛び出す水のように、自転にともなってらせん状に広がっているためと考えられる。コマの視直径は約10分、一層の厚さは約0.5分、地球からの距離は約1.70AU、太陽からの距離は約1.02AU、推定等級1.2等である。
この画像についてもう少し見やすくしてみます。
望遠鏡による眼視観測でも核をとりまく層状構造が見られたが、一層の厚さは約4万kmであり、彗星の尾の実際の長さは3500万km以上はあると見積もられる。彗星本体の実際の直径は大きく見積もっても数10km程度といわれていることと考えあわせると、想像を絶する壮大な規模で彗星の物理的現象が宇宙空間に広がっていることがわかる。
左の画像のAB間の輝度分布をグラフ化したものが右のグラフである。明らかにa,b,cにピークがみられ、層状構造をなしていることが分かるが、ピークの間隔がab間よりbc間の方がせまくなっている。これは、おそらく太陽風による圧力で噴出したガスやダストの広がりかたが減速しているためではないかと考えられる。
ところで今回の紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)の自転についてはどのようなことが考えられるでしょうか。ヘール・ボップ彗星のような目立った層状構造などは見られません。しかし、先ほどの強調処理をした画像の特徴的な場所にa~eの記号を付け、左回りに自転していると仮定して、核本体の動態について推察してみます。太陽は右下に位置しています。
核本体は直接見えないが、核の表面の a, b, c, d, e の方向で常に次のような現象が推察されます。放出された物質は白→赤色に輝いているものとして考えます。
a→夜明けと共に急激な温度上昇が起こり、放出が活発になり赤い領域が急に厚くなる。
b→太陽の高度が最高に達し、日射量も最大となり最も高温となるため、赤い領域は最も厚くなる。
c→太陽が沈むと温度が下がり始め、赤い領域は左回転しながら薄くなる。
d→夜が深まり温度がさらに低下すると、放出は減少し赤い領域も同様に薄くなっていく。
e→夜明け直前には温度が最低になり、放出は最小限になり、赤い領域は最も薄く凹んだ形状を呈する。
以上より、核の動態を説明することができ、その結果が左回りというわけです。
・・・彗星核にもいろいろあることがわかります。どう考えたらうまく説明がつくかというような話であり、彗星核本体ってけっこう謎なんですね。よく「汚れた雪だるま」にたとえられますが、実際は「謎の雪だるま」なのです。だから、わざわざ探査機が行って調査しちゃうわけです。しかし、彗星から勢いよく放出される物質によって探査機のカメラなど観測機器が壊されないように、装甲板を装備するなど、なかなか困難を伴なう探査だといわれています。